There Swings a Skull: Grim Tidings のレビュー

なんだかよくわからないが太陽が狂ってすべてを焼き尽くしつつある街 Pareildas で、肩を寄せ合って暮らすゲイカップルのAnatoliとPYOTL。なんとか平静を保とうと永遠に電車の来ない駅へ毎朝出勤するAnatoliだったが、砂の城が風に晒されるようにして彼らの日常も次第に崩れていき――というツクール（2003）製RPGゲーム。 2,3時間ほどで終わる短編。物語の分類としては終末SFなのだとおもう。とはいっても、人類の文明がFalloutしてMADがMAXだぜ！！みたいなノリではなく、全編通してとても静かに穏やかに語られていく。そうした語り口でじわじわと世界が丁寧に削られていくさまが、なんともイヤさに満ちていてよい。 ちなみにダブル主人公制とでもいえばいいのか、AnatoliとPyotlそれぞれの視点から物語が綴られていくのだけれど、たがいを思いやりながらも（思いやるがゆえに）微妙にすれ違っていくのも切ない。 ちなみに他の登場キャラはせいぜい数人（みんな焼き殺されたので）といったところだが、どれも強烈な個性の持ち主だ。個人的なお気に入りは、地下に潜って毎日謎の放送を行っている市長。主人公たちから憎まれているけれど、テンション高くてなんだか憎めない。 どこの描写をとっても現代社会のある種の側面の諷刺であるようにおもわれるけれど、それ以上に悪夢的な世界観の強烈さが先に来る、という点では『ゆめにっき』や『OFF』以来のツクールアドベンチャーの伝統に則した一作。グラフィックも『MOTHER』っぽいキュートで懐かしいピクセルアートで、良いアクセントになっている。 開発チームはConor WalshとQuinn K.のふたり。もともとゲームジャムで作った作品を発展させたものらしい。 オーストリア出身のQuinn K. は英語圏では「もともとはフランス語だった『OFF』を英語に訳したひと」として有名らしく、本作の紹介ページでもまずその肩書きが最初に来ている。訳したことで『OFF』に呪われたのかなんのなのか、開発者としても2010年代から10年以上に渡って『OFF』の開発エンジンであったRPGツクール2003製のゲームをいくつか作りつづけていた。最新のワーキングタイトル『Blanksword』も（本作と同様に）『OFF』のビザールさと『Mother』のノスタルジックを混ぜたようなアートワークが特徴だ。 一方、Walshは天下のObsidian Entertainmentでプロのライターとして『The Outer Worlds』などのメジャータイトルに関わるかたわらで、itch.ioでホラー風味のヘンなゲームを個人制作している人物。 ほかにもクレジットにEnigma Studio（『The Enigma Machine』）のJamie Gavinなどが名をつらねていて、オルタナティブ・ホラー・インディーの実力者たちがアセンブルした印象。